Qwen 2.5チュートリアル:クイックスタート、デプロイ方法、実用的な活用事例
更新日時: 2025-09-05 12:32:56
人工知能は単なるテキストモデルの領域を超え、単語・画像・動画まで理解できるマルチモーダル時代へ急速に進化しています。この変化は、文書自動化からインテリジェントな学習支援、マルチメディア分析まで、より自然で強力なアプリケーションの可能性を広げています。
Alibaba Cloudによって開発されたQwen 2.5は、現在利用可能な中で最先端のオープンソース・マルチモーダルモデルのひとつです。言語理解、高解像度画像処理、動画推論を一つのシステムに組み合わせて提供します。多くのクローズドなプラットフォームと違い、Qwen 2.5は研究用途も商用利用も自由に可能なため、開発者、スタートアップ、企業が実用的なAIソリューションを構築するのに魅力的な選択肢となっています。
本ガイドでは、Qwen 2.5の導入方法について解説します。インストール手順、クイックスタートの例、展開方法、実際の活用事例について網羅しているので、自身のプロジェクトでモデルを活用する際の参考になります。
Qwen 2.5-VLとは
Qwen 2.5-VLは、Tongyi Qianwenプロジェクトで開発された最新世代のビジョン&ランゲージモデルです。大規模な言語処理に高解像度画像解析や動画理解を組み合わせています。3B、7B、32B、72Bのパラメータ規模があり、小型モデルはローカル実験に最適、大型モデルは業務用タスクで最先端の性能を発揮します。最大128,000トークンのコンテキスト長まで対応しており、書籍全体や長い会話も扱えます。GPT-4VやGeminiと異なり、Qwenは完全なオープンソースで柔軟な導入が可能です。
インストールとセットアップ
環境とライセンス
Qwen 2.5-VLはApache 2.0ライセンスで提供されています。つまり完全オープンソースであり、研究・商用プロジェクトどちらでも制約なく利用できます。
モデルサイズとコンテキストサポート
3B、7B、32B、72Bなど複数のパラメータ規模が用意されています。小型モデルはローカルで簡単に動作し、大型モデルは最高性能を発揮するもののサーバーグレードのGPUが必要です。72B版以外すべてがオープンライセンスで利用できます。Qwen 2.5-VLは最大128,000トークンまでの長いコンテキスト入力にも対応しており、長文書や会話分析にも適しています。
インストール手順
Hugging Face Transformersでモデルをセットアップするには、必要なパッケージをインストールします:
pip install git+https://github.com/huggingface/transformers accelerate
pip install qwen-vl-utils[decord]==0.0.8
インストール後、Pythonの数行のコードでモデルとプロセッサをロードできます:
from transformers import Qwen2_5_VLForConditionalGeneration, AutoProcessor
model = Qwen2_5_VLForConditionalGeneration.from_pretrained("Qwen/Qwen2.5-VL-7B-Instruct", torch_dtype="auto", device_map="auto")
processor = AutoProcessor.from_pretrained("Qwen/Qwen2.5-VL-7B-Instruct")
ハードウェアと量子化
- 3Bと7Bのモデルは、量子化版を使えば現代のGPU1台で動作可能です。
- 32Bと72Bモデルは、複数の強力なGPUが必要です。
- INT8やINT4などの量子化オプションを使うことでメモリ消費を抑え、ローカル導入の実用性を高めながら精度を保てます。
Transformersによるクイックスタート
環境構築後は、わずか数行のコードでQwen 2.5-VLを利用できます。Hugging Face Transformersライブラリがテキスト・画像・動画入力に簡単なインターフェースを提供します。
モデルとプロセッサのロード
from transformers import Qwen2_5_VLForConditionalGeneration, AutoProcessorimport torch
model = Qwen2_5_VLForConditionalGeneration.from_pretrained("Qwen/Qwen2.5-VL-7B-Instruct",
torch_dtype=torch.float16,
device_map="auto")
processor = AutoProcessor.from_pretrained("Qwen/Qwen2.5-VL-7B-Instruct")
画像による質問応答
例えば、請求書画像から内容を抽出したい場合:
from PIL import Image
image = Image.open("invoice_sample.png")
question = "この請求書の合計金額は?"inputs = processor(text=question, images=image, return_tensors="pt").to("cuda")
outputs = model.generate(**inputs, max_new_tokens=128)print(processor.batch_decode(outputs, skip_special_tokens=True))
動画の理解
Qwen 2.5-VLは動画入力にも対応しており、クリップの要点要約や分析が可能です:
video_path = "meeting_clip.mp4"question = "この動画の主な議論ポイントを要約してください。"inputs = processor(text=question, videos=video_path, return_tensors="pt").to("cuda")
outputs = model.generate(**inputs, max_new_tokens=256)print(processor.batch_decode(outputs, skip_special_tokens=True))
マルチモーダル入力
複数画像や画像と動画の組み合わせを一度に渡して、より複雑な推論を行うことも可能です。
ローカルデプロイ:Webデモ&Ollama
Qwen 2.5-VLはAPIやPythonスクリプトによる利用だけでなく、もっと手軽なインターフェースや軽量な実行環境でもローカルで実行できます。
ローカルテスト用Webデモ
公式リポジトリにはweb_demo_mmスクリプトが同梱されており、簡単なWebベースインターフェースを立ち上げられます。画像や動画ファイルをアップロードして、チャット形式でモデルと対話できるため、自作コード不要でマルチモーダル機能を素早く試せます。
デモを開始するには、プロジェクトディレクトリで以下を実行します:
python web_demo_mm.py
起動後はブラウザからアクセスでき、プロンプト入力やメディアアップロードが可能です。迅速な試行やプロトタイピングに最適な環境です。
リアルタイム動画チャットデモ
開発元が提供するもう一つの例として、リアルタイム動画チャットデモもあります。このバージョンではウェブカメラや動画ソースから入力を配信し、コンテンツについてモデルにリアルタイムで質問することができます。Qwen 2.5-VLのダイナミックな監視や対話型学習支援など、様々なシーンでの活用力が示されています。
OllamaでQwenを実行
もっと軽量な体験を求めるユーザー向けに、Qwen 2.5はOllama上でも利用可能です。Ollamaは大規模モデルのローカル実行環境を簡単に提供します。インストール後はワンコマンドでQwen 2.5モデルをダウンロードし、煩雑なセットアップなしですぐに対話できます。
Python環境の細かな知識が不要で、ノートPCやデスクトップでも気軽にQwenを試したい方に特におすすめです。
一般的な活用例:ゼロショット物体検出
Qwen 2.5-VLの実用的な使い方のひとつがゼロショット物体検出です。従来のコンピュータビジョンシステムのようなラベル付き学習データがなくても、探したい物の自然言語説明だけで検出結果を得られます。
これにより、「机の上の全てのカップ」や「この写真に写っている全ての信号機」のようなタスクが、専用データセットを用意せずとも実行可能です。モデルは検出結果をJSONなどの構造化フォーマットで矩形座標ごと返すこともでき、下流の自動化パイプラインにも活用できます。
ワークフロー例
- 画像を入力します。
- 興味のある物体を自然言語でQwenに依頼します。
- モデルが座標とラベルをJSON形式で返します。
- 結果は可視化したり、他のアプリに統合したりできます。
コード例
from transformers import Qwen2_5_VLForConditionalGeneration, AutoProcessorfrom PIL import Imageimport torch, json
# モデルとプロセッサのロードmodel = Qwen2_5_VLForConditionalGeneration.from_pretrained("Qwen/Qwen2.5-VL-7B-Instruct", torch_dtype=torch.float16, device_map="auto")
processor = AutoProcessor.from_pretrained("Qwen/Qwen2.5-VL-7B-Instruct")
# 入力画像image = Image.open("street_scene.jpg")
prompt = "この画像に写っている全ての車と信号機を検出し、結果をJSONで出力してください。"
# 前処理と生成inputs = processor(text=prompt, images=image, return_tensors="pt").to("cuda")
outputs = model.generate(**inputs, max_new_tokens=256)
result = processor.batch_decode(outputs, skip_special_tokens=True)
# 出力をパース(JSON形式の場合)
try:
parsed = json.loads(result[0])print(parsed)except:print(result)
ポイント
この方法で高価なアノテーション作業が不要になります。Qwen 2.5-VLを使えば、リテール分析、交通モニタリング、ロボティクス、スマートシティなど、設計の手間なく様々な分野に素早く応用できます。
性能とファインチューニング
ベンチマーク性能
Qwen 2.5-VLは幅広いマルチモーダルタスクで評価されており、文書質問応答(DocVQA)、光学文字認識、長文コンテキスト推論などで高い実績があります。他のオープンソースモデルに比べても複雑な文書や動画入力への対応力が優れています。
128Kトークンまでの入力に対応しているため、書籍やレポート、大規模な会話も途切れることなく解析可能です。長いコンテキスト推論が必要な場面でも、トップクラスのオープンソースモデルです。
ファインチューニングの選択肢
ベースモデル自体が高性能ですが、より特定用途に合わせてQwen 2.5-VLをカスタマイズしたい場合にも多様なファインチューニングオプションがあります:
- 完全ファインチューニング:すべてのモデルパラメータを更新して最大限にカスタマイズします。十分な計算資源を持つ組織に最適です。
- パラメータ効率の高いファインチューニング:LoRAやQLoRAのような手法で、はるかに少ないパラメータでモデルを適応させます。コストを抑えられ、実際の運用でも広く使われています。
- ドメイン適応:医療画像、財務報告書、法律契約などの専門データセットで学習させ、特定分野の精度を高めます。
量子化と最適化
実運用をより現実的にするため、開発者はモデルの量子化版(INT8やINT4精度)を使うことができます。これによりGPUメモリの使用量が減り、推論速度も上がります。精度を保ちつつ効率化できるため、Qwen 2.5をローカルや資源の限られたクラウド環境で利用する際に重要です。
トラブルシューティングとコツ
デコードループの回避
場合によっては、モデルが繰り返しや途中で止まる出力を生成することがあります。これを防ぐには、temperature、top_p、max_new_tokensなどのデコードパラメータを調整してください。バランスよく設定すると、より安定した応答が得られます。
ハードウェア制約
32Bや72Bのような大型モデルを動かすには大量のGPUメモリが必要です。メモリ不足エラーが出た場合は、小型モデル(3Bや7B)を使うか、量子化(INT8やINT4)を適用しましょう。これらの方法でVRAMの使用量が減り、現実的なパフォーマンスを保てます。
デコーダの選択
動画入力を扱う場合、一部のデコーダで不具合が報告されています。decordからtorchcodecや他の最適化されたライブラリに切り替えることで、安定性と速度が向上します。必要なパッケージの最新版をインストールしてください。
プロンプトエンジニアリング
物体検出やドキュメント処理などのタスクでは、指示を明確にしましょう。例えば「結果をJSON形式で返す」「箇条書きで要約する」などです。明確なプロンプトは曖昧さを減らし、出力の質を高めます。
バッチ処理
画像や動画を複数処理する場合は、入力をバッチ化することで時間と資源を節約できます。各ファイルを個別に実行するのではなく、プロセッサのバッチ機能を活用しましょう。これにより関連する入力間で文脈も保てます。
まとめ
Qwen 2.5-VLは、オープンソースモデルがマルチモーダルAI分野で閉じたシステムと肩を並べることを示しています。高性能なOCR、動画推論、長文対応など、開発者や企業にとって実用的なツールです。Apache 2.0ライセンスで柔軟に使え、モデルサイズのバリエーションも用途に合わせて選べます。今後は音声や3D領域にも拡張される予定なので、最先端のマルチモーダルAIを活用したい人にとって、有力な選択肢となるでしょう。
FAQと応用トピック
Qwen 2.5-VLはAPI経由でも使えますか?
はい。ローカル運用に加えて、クラウドAPI経由でQwen 2.5-VLを利用できるため、Webやモバイルアプリケーションと簡単に統合できます。
Qwen 2.5をサポートするプラットフォームは?
モデルはローカルパソコン、エンタープライズサーバー、主要クラウドプラットフォームで運用できます。Dockerイメージも用意されているので、セットアップも簡単です。
最適なモデルサイズの選び方は?
実験や軽量な用途には3Bや7Bがおすすめです。ハードウェア資源が豊富な企業なら、32Bや72Bを使うことで最大性能を引き出せます。
Qwen 2.5は構造化出力に対応していますか?
はい。プロンプトで指示すれば、JSON、表、キーバリュー形式などで結果を生成できるため、データ抽出や自動レポートなどにも便利です。